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※本稿は、げげ『後悔しない家づくりのすべて』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集したものです。
あなたは、なんのために家をつくりますか。家づくりは、建てることが目的ではありません。そこで末永く幸せに暮らせて初めて、成功といえるのです。
ただ、幸せの定義は、人によって異なります。広い庭があるのが幸せ。家族が団らんできる居心地のいい場所があるのが幸せ。自然を眺めながら暮らすのが幸せ。趣味の空間に囲まれて暮らすのが幸せ……。挙げればきりがありません。
さて、あなたにとって「幸せな家」とはなんでしょう。
きっと今は、もやもやとしてはっきり定まっていないかもしれません。そんなあなたの「幸せな家」を形にしていき、実際に家づくりを行う際の羅針盤とするのが、この本の役割です。
間取り、デザイン、性能……。気になる話はたくさんあるでしょうが、各論に移る前に、まずは誰もが家をつくるためのベースとなる考え方として「幸せになる家づくりの5つの鉄則」を本稿ではお伝えしていきたいと思います。
いきなり厳しい話になってしまいますが、タイトルの通り、「すべてを満たす家」は幻の存在です。
これは、「仕事選び」と似ています。給料、仕事内容、勤務地、勤務時間、人間関係……。すべて理想通りの仕事が見つかれば最高ですが、仮に見つかっても、その職場に選ばれるというハードルは限りなく高いかもしれません。
仕事選びにあたり、多くの人は「完璧」を求めず、優先順位をつけて検討するのではないでしょうか。
家づくりでも、その感覚を持つことが大切です。完璧を求めずにどうやって幸せになれる家を建てるのか。
建築にあたり、三角形といえる要素が、「性能」「デザイン」「コスト」です。そのどれを優先し、どこをある程度譲るか。バランスを見ながら、最適解を探していくのが、いい家づくりの秘訣(ひけつ)です。
あらゆる要望を満たす完璧な家という幻を追いかけるより、「自分にぴったりの、居心地のいい家」を建てる。それが本書の目標です。
「どんな家をつくりたいですか?」。設計者からそう聞かれた際、多くの人は、「間取り」や「部屋数」を答えるでしょう。3LDKがいい、吹き抜けがほしい、子ども部屋は2つ、書斎は、お風呂は……。
確かに具体的な要件を出すのも必要ですが、いきなりそこからスタートすると、家が建ったあとに、使わない部屋や空間が出てきがち。生活に必要のない不幸な空間は、家を「実際にどのように使うか」が想定できていないことで生まれるものです。
まず考えるべきこと。それは「どんなふうに暮らしていきたいか」です。
趣味を楽しみたい、家族団らんを大切にしたい、家事を快適に行いたい、庭をのんびり眺めたい、ペットとのびのび過ごしたい……。自分がその家でどんな暮らしをしたいのかを事前にイメージしておき、それに合わせて間取りや部屋数、デザイン、外観といった要素を組み立てていくのが、幸せな家づくりのゴールデンルートです。
ほしい暮らしこそ、家づくりの設計図なのです。
幸せに暮らせる家をつくるのに重要なのが、「間取り」です。
間取りの決定は、部屋数や配置といった表面だけの話ではありません。間取りは家の構造とイコールであり、柱の数や壁の位置が家のあらゆる性能に影響を及ぼします。
たとえば、凹凸のある間取りほど熱が逃げやすくなり、空調コストがかさみがちですし、吹き抜けや窓を大きくとれば、構造的には弱くなります。デザイン優先で、合理的な位置に梁や壁を設けることができなければ、断熱性や耐震性にマイナスの影響が出ます。
そして間取りは、建築後にもっとも変えづらい要素です。気に入らないから、不便だからと、簡単につくり変えることはできません。
おしゃれな家や広い家をつくりたい気持ちはわかりますが、デザイン性や空間の確保を優先するあまり、性能や快適性、経済性が落ちるのは避けたいところ。
設計者と納得いくまで相談し、希望する間取りのメリットとデメリットを天秤にかけたうえで慎重に決めましょう。
「広い家がほしい」。それはなぜでしょう。昔からの夢だった? 広いほうが、暮らしやすそうだから? そうして「なんとなく」いいと思っているけれど、広い家を建てる具体的な理由がない。そんな人が多いと感じます。
私が提案したいのは、むしろ逆。「小さな家」を建てるほうが、豊かに暮らせると考えています。
広さは、コスト。大きい家を建てる分だけお金がかかります。部屋が広いほど室温を快適に保つのにエネルギーがいり、掃除も大変です。
小さな家なら建設費用が抑えられ、その予算を断熱性や耐震性といった「家の性能」にまわすことでより快適に、安心して毎日を過ごせます。家族全員が目の届く範囲で暮らし、掃除もラク。敷地にできた余白で庭が大きくとれますから、のんびり緑を眺めたり、家庭菜園をしたりするのもいいでしょう。
家の広さを、むしろ最小限にすることで、暮らしの質を上げる。それが、幸せになる家づくりの原則です。
家づくりは、迷いの連続です。
思いの外選ぶべきことが多く、度重なる打ち合わせに疲れて「もう何が正しいかわからない……」と、「選択疲れ」を起こす人も少なくありません。
そんな大変さを軽減するには、あらかじめ自分なりの判断基準を持っておくことが大切です。判断基準があれば、それに基づいて迷わず判断できる項目が増え、自信を持って前に進んでいけます。
自分なりの判断基準の土台となるのは、「どんな暮らしがほしいのか」。そこがすべての始まりです。
ほしい暮らしを掘り下げると、自らの原体験に行きつくかもしれません。小さな頃、自然豊かな場所で育ったから、広い庭があるといい。実家が古く、冬はいつも寒かったので、あたたかな家で生活したい。
そうして自らの過去に寄り添い、心の底に眠る思いを解消してくれる家ができれば、必ず幸せに暮らせます。
よそと比較するより、自分と向き合ってほしい暮らしを導くことで、自らが大切にすべき家づくりの軸が見えてくるでしょう。